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「食」をつないでふるさとを守る

モルツウェル株式会社 代表取締役社長

野津 積さん

野津さんの経歴

島根県を中心に北は北海道、南は鹿児島県まで食品の製造販売事業や買い物代行サービスなどのソーシャルビジネスを展開しているモルツウェル株式会社。その経営者、野津積さんは異色の経歴の持ち主だ。野津さんは大学卒業後、映画007に憧れ法務省の公安調査庁に入庁。その後島根にUターンし、ホテルに勤めながら夜は職場に内緒で飲食店を経営していた。29歳の時に弁当屋ほっかほっか亭とフランチャイズ契約し、松江を中心に経営を始めた。当時、野津さんは本部の宅配サービスはしない方針に背き、「弁当を届けてほしい」というお客様の声に応えるため、独自に宅配サービスを開発した。今では全国に広まり、当たり前となっているこの宅配サービスは野津さんの「ルール破り」によって生まれたのである。

モルツウェルの取り組み

弁当屋を経営する中で、野津さんはファミリー客、その中でも特に子どもの減少と高齢者からの需要が急増していることに気づいたと言う。そして2005年、高齢者施設向け真空パック食材製造販売事業や在宅高齢者配食サービスなどのシニアフードビジネスへ参入した。

モルツウェルでは1日2回の在宅高齢者配食サービスを行なっている。また、5分300円のチケットを発行し、家事代行や庭の草取りなどもしており、高齢者に限らず子育て中の方、体が不自由な方にも人気だ。配達の際はたとえ短い時間であっても何気ない会話で相手を楽しませる。その中でお年寄りとの間につながりが育まれ、小さな変化にいち早く気づくことができるのだという。ごようきき三河屋の配達員は単に食事を配達するだけでなく、笑顔も届ける「エンターテイナー」なのだ。

ふるさとは永遠ではない

2011年3月1日に東日本大地震災が発生した。日本を震わせたこの出来事は野津さんの仕事にも大きな影響を与えることとなる。東北エリアでも事業を展開していたこともあり、すぐに義援活動に向かった。津波によって流された光景を見た時、「帰ればいつでもそこに存在すると信じて疑わなかったふるさとは永遠ではない」ことを悟ったと語る。そして同時に一瞬でふるさとを失った東北と戦後、都会に若者が流出し人口が減少し続けている島根が重なって見え、「この先ふるさと島根は存在するのか?」という考えが頭をよぎった。

震災後の極限状況の中で生き残った人々を恐怖に陥れたのは物流の寸断だった。「あのときの状況は実際に見た者でないとわからない」。それほど大変な状況だったと当時を振り返る。「ふるさとの衰退は物流の衰退と同義」。野津さんは止まらない「食」と「物流」を創ることを誓った。

在宅高齢者配食サービスや買い物代行サービス「ごようきき三河屋」にはそのような想いが込められている。体が不自由な方やお店まで遠くて買い物に行くのが大変な方に代わって食料品や日用品を自宅まで届けている。365日、命をつなぐ「食」と同時に、何気ない会話と笑顔を届け、お客様の思いや変化を感じ取ることができる。

MISSION ふるさと守り

 「ふるさと守り」。モルツウェルの究極の目標はこの6文字に込められている。「35年間高齢化率日本一だった島根は課題の先進地。これまで過疎に苦しみながらも培ってきた知恵がある。そのノウハウは全国に、そして世界に役立てることができる」と語る野津さんは、全国にサービスを展開すると同時に、海外事業を始めようとしている。国籍や宗教、さまざまなものが違っても最終的に共通して誰にも残るもの。それはふるさと。そのふるさとを守るために野津さんは現場最前線で走り続ける。

【編集後記】

取材を通して野津さんのふるさとに対する熱い想いと魅力を感じることができました。モルツウェルには多くの事業がありますが、どれもこれからの社会になくてはならないものだと思いました。全ての人に共通するものは「ふるさと」であると聞いて、自分のふるさとについて考えるきっかけになりました。

島根大学 嘉本龍嗣

株式会社 奥出雲社中 代表取締役

有限会社 吉川工務店 専務取締役 吉川朋美さん


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